ASCO2018: 膵臓癌に関する研究発表

2018年度米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会では、世界中から集まった32,000人以上の腫瘍専門家によって、がん治療と患者ケアに関する最新の研究が発表されました。今年のテーマは、「ディスカバリーの提供:プレシジョンメディシンの範囲拡大」です。プレシジョンメディシンは、がん治療に多くの進歩をもたらしましたが、この成長分野ではまだ多くのことを学ぶ必要があります。さらに、ASCOのBruce E. Johnson会長(FASCO、MD)は、プレシジョンメディシンが約束する恩恵は、「これらの治療法がすべての患者に提供できてこそ価値がある」と述べています。今年のASCO総会におけるがん研究の大部分はプレシジョンメディシンに焦点を当てていますが、同時にすべての患者による、これらの治療へのアクセスを増やすための継続的な努力も行われています。

2018年6月4日に発表された膵臓がんに関する研究について紹介します。

1.化学療法の組み合わせは、膵臓がん患者の余命を延ばす
2.術前化学放射線療法は、膵臓がん患者の予後を改善する

このふたつ研究論文は、膵がん治療の変化がより効果的かもしれないことを示しました。膵臓がんは、切除可能な早期に発見された場合でさえ、最も治療が困難ながんのひとつです。しかしながら、切除可能な膵臓がんに対する現在の標準的アプローチへの変更が患者の生存期間を延長するのに役立つことが示された新しい研究が発表されました。

発表1. 化学療法の組み合わせは、膵臓がん患者の余命を延長する

最初の研究では、外科手術後に、新しい化学療法を受けた非転移性膵腺がん(PDAC)の患者は、現在の標準化学療法を受けた患者よりも長く生存し、がんが抑制されたことが判明しました。

手術後に行われる化学療法を補助化学療法といいます。 現在、標準的な補助化学療法には、米国ではゲムシタビン(ジェムザール)が用いられています。(編集注:日本ではS-1が術後の標準療法となっています) 膵腺がんは、最も一般的なタイプの膵臓がんであり、全膵臓がんの90%を占めます。

この研究で用いられた新しい化学療法レジメンは、mFOLFIRINOXと呼ばれています。それには、オキサリプラチン、ロイコボリン、イリノテカン、および5-フルオロウラシルの4つの薬剤が含まれています。転移性膵臓がんの初期治療としても同様のレジメンが既に使用されています。

PRODIGE 24 / CCTG PA.6試験(NCT01526135)と呼ばれるこの臨床研究に参加した493人の各々は、腫瘍の全てまたはほとんどを切除する手術を受けました。手術の3〜12週間後、mFOLFIRINOXまたはゲムシタビンのいずれかによる治療を6ヶ月間受けました。

全生存期間中央値(OS)は、mFOLFIRINOXで約54ヶ月、ゲムシタビンで約35ヶ月でした。中央値は中間点であり、これは患者の半数がより長く生存し、半分がより短い時間生存したことを意味します。 mFOLFIRINOXを服用している人は、ゲムシタビンを服用していた人よりも約9ヶ月長く生存しました。がんのない無病生存期間(DFS)中央値は、mFOLFIRINOXで約22ヶ月、ゲムシタビンで約13ヶ月でした。

全体的に、mFOLFIRINOXを投与された患者はより重度の副作用の症状を示しましたが、多くは治療可能でした。副作用には、下痢、吐き気、嘔吐、および疲労が含まれていました。ゲムシタビンの副作用としては、頭痛、インフルエンザ様症状、腫脹、白血球数の低下などがありました。どちらの治療でも低レベルの白血球減少と発熱を引き起こす可能性がありました。

この臨床試験のリード研究者であるThierry Conroy博士は、「今回の臨床試験で初めて、術後のゲムシタビンによる標準的な化学療法よりもmFOLFIRINOX化学療法による大きな利点が示され、膵臓がん患者の生命をより長く延長することができました。さらに、この臨床試験を計画したときに予想していた以上に優れた結果が得られたことに励まされました」と語りました。

ASCO Post: http://www.ascopost.com/News/58907

 

発表2. 術前化学放射線療法は、膵臓がん患者の予後を改善する

PREOPANC-1と呼ばれる臨床試験では、手術前にゲムシタビン化学療法と放射線治療の併用療法を受けた膵がん患者の方が長く生存していたことが示されました。化学療法と放射線療法の併用療法は化学放射線療法と呼ばれます。 手術によって治療を開始した後に化学療法をすることが、現在、膵臓がんの標準治療です。 手術前に行う治療は、術前または術前補助療法と呼ばれることがあります。この臨床試験に参加した246人は外科的に切除可能な膵臓がん患者でした。 この試験では、患者は無作為に2つのグループに割り当てられ、第1群は手術を最初に受け、第2群は手術を受ける前に化学療法+放射線療法を10週間受けました。 両群とも手術後には標準化学療法を受けました。 全体として、与えられた化学療法の総量は、両方の群で同じでした。 手術前に化学療法+放射線療法を受けた患者は、手術前にその総量の一部を使い、術後化学療法で残りの量を使いました。

研究者らは、手術前に化学療法+放射線療法を受けた患者の全生存期間(OS)中央値は、受けなかった群より約3ヶ月延長していたことがわかりました。中央値は中間点であり、これは全患者の半数がより長く生存し、半分がより短い時間生存することを意味します。 手術前に治療を受けた人のうち42%が2年以上生存していましたが、手術前に治療を受けなかった人は30%でした。

時には、膵臓がんが非常にはやく悪化し、手術中に腫瘍を完全に除去することができないことがあります。 この研究では、手術前に化学療法と放射線療法を受けた患者の群では、63%が腫瘍を完全に切除できたのに対して、手術前の治療を受けていない患者の群では、31%しか腫瘍を完全に切除できませんでした。

主任研究者であるGeertjan Van Tienhoven博士(MD、PhD)は、「これは、術前治療が、手術を受けることができる膵臓がんの初期段階にある患者のアウトカムを改善することを示す最初のランダム化臨床試験です。 私たちはこれが膵臓がんの標準治療を変える臨床試験であると信じています。」と語りました。

 ■これらの研究成果は何を意味するのでしょうか?

膵臓がんは治療が難しいため、患者がより長く生きるために新しい治療法を見つけることは、膵臓がん患者の治療成績を改善する上で重要なステップです。 ここに紹介された研究成果は、術後併用化学療法を受けるのに十分健康な患者、または術前化学療法+放射線療法を受けることを検討したいと思うかもしれない切除可能な膵臓がん患者にとり有益な治療の選択肢を示唆しています。